東山にしこの
カラオケ修行
　

前回は、「どれぐらいの大きさの声で歌えばよいかわからない」ということを書いた。
高い声が出せないことや、すぐせきこんでしまったりするのは、大きな声でがなりすぎだからではないか、という仮説もつくった。
その後、ふつうに歌がうまい人に「歌ってどれぐらいの音量で歌うの？」ときいてみたが、「大きい声で歌いますよ！　シャウトもしますよ」とのことだった。
そうかー。で、その結果、せきこみそうになったら、「のど荒れ用のスプレーをかけます！」なのだそうだ。

そうなのか…。15年ぐらい前に「歌手の小金沢くん」がやってたテレビCMのあれか。
のどが荒れたら荒れ止め。それは自然な考え方だな。いいかもしれない。

とかいってたら、あるカラオケの席で、別の人からこんなものをすすめられた。

商品名は「プロボイス」。ラムネ菓子のタブレットである。激安量販店のドン・キホーテに売ってたらしい。
タブレットをかまずに２個なめると、高い声が出るようになるというのである！
成分を見たらリンゴ酸とマグネシウム。あとはラムネ菓子にふつうに入っている甘味料や添加物だ。
つまりリンゴ酢とにがりを水で薄めたようなものである。そんなのちょっとなめたぐらいで害はあるまいと思ったが、新陳代謝がさかんな若者ではないのだし、ねんのため１個だけにして、なめてみることにした。

なんなんだ、これ。驚きだ。
いままで出したことのない音域の声（上のド♯以上、ミあたりまで）がラクに出る。それも、たまたま、叫ぶようにしたら届きました、という出方ではなく、ちゃんと太さのある声で出るんである。
出る、というだけであってうまくはならないんだが。

なめたほぼ直後に効果が出て、効き目はカラオケ屋にいた２時間、ずっと持続していた。いやー、ドラッグやってあんなことやこんなことをするのも、ちょうどこんなかんじなんだろうなあ、と思った。
その後、ドラッグレスで１回カラオケに行ったが、もちろん本人の音域には何の変化も生じていなかった。
あとでネットで調べたが、リンゴ酢とにがりには、筋肉をゆるめる効果があり、それでのどが広がるので、音域が広がるのだそうだ。
だから自分で調合して飲んでもいいんだそうだ。ただしにがりは摂りすぎによる死亡事件も２年ぐらい前にあったから、要注意だと思うけど。

するってぇと、何かい？　音域が狭いとか声がキンキンしてるのとかは、すべて、のどの筋肉が緊張しているからなのか。
歌がうまい人や声がきれいな人は、その緊張をゆるめるのがうまいってことなのか。

しかし、そういう能力が低い人間や、その訓練に人生をかけてるわけにいかない素人は、この菓子でドーピングするのが手っ取り早いということになる。
すごいなー。
こんなものがわたしの子供時代にもあったら、歌にコンプレックスを持たずにこれたのに。それとも音楽の授業のあと、ドーピング検査にひっかかって失格していただろうか。

アルコールを飲みながらなめてはいけない（！）とか、のどがかわいた状態で使ってはいけないとか、制限もあるんだが、わたしと同じ悩みとコンプレックスのある人には小声ですすめてみたい気もする。そして効果をきいてみたい。
ネットでは、効く人とあまり効かない人がいるという情報もひろえたが、そりゃそうだ。ふつうの人が出せる高さの声が出せない、そんな人じゃなきゃ劇的な効き目は体験できないだろう。
しかしわたしほど音域が狭い人は身近にいない。というか、わたしのように声のことで悩み、歌に苦手意識のある人は、ふつうはカラオケなんかしないのである…。
（2009/12/27）